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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)5068号 判決 1955年12月28日

原告 山木俊助

被告 野村秀三郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が訴外新井博に対する執行として債権者被告、債務者新井博間の東京地方裁判所昭和二十九年(レ)第二号損害賠償請求控訴事件判決の執行力ある正本にもとづき、昭和三十年七月五日付差押命令の執行により新井博より訴外東京教育大学長栄沼直に対する金二万三千七百二十五円五十銭の新井博の債権(但し昭和三十年七月以降の俸給手当その他一切の給与金のうちその支払期日に支払すべき金額の四分の一を右金額に達するまで)につき開始した強制執行はこれを許さない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

被告は申立に掲げた判決の執行力ある正本にもとづき、昭和三十年七月五日、債務者新井博に対する執行として同人より第三債務者東京教育大学長栄沼直に対する昭和三十年七月以降の俸給手当その他一切の給与金につき各その支払期に支払を受くべき金額合計金二万三千七百二十五円五十銭の債権の差押命令を得、その頃同債権の差押を為した。然し原告は右差押に先だち、被告より新井博に対する上記債務名義表示の損害賠償等の請求債権に対し、昭和二十九年十二月二十日、原告より被告に対する金二万七百三十円の債権の執行を保全するため、仮差押決定を受け、その頃同仮差押の執行を為した。その後右仮差押決定に対し被告は異議を申立て東京地方裁判所昭和三十年(モ)第五八三号事件として右決定は之を取消す旨の仮執行宣言付の判決が為されたが、原告は同判決につき控訴し(東京高等裁判所昭和三十年(ネ)第九九九号)右上訴を理由として右仮執行停止決定を(同庁昭和三十年(ウ)第三二六号)を受けたもので、現に原告の被告に対する右仮差押決定の効力は存続しているものである。

よつて、仮差押債務者である被告は右被仮差押債権の行使を禁止されているものであり、被告の右債権にもとづく本件執行は許さるべきでないから、その排除を求める。と述べた。

被告は原告の請求を棄却するとの判決を求め原告主張事実は全部認めるが、(一)原告主張の仮差押は被告がその債務者新井博に対する債権の執行を確保するための差押までも禁止するものでなく、被告のなした差押は、むしろ、原告のなした仮差押の目的たる被告の債権の保全を一層強化するもので仮差押債権者である原告に何等の害も与へないのみならず、(二)元来強制執行に対する第三者の異議は、その執行の目的物について所有権その他目的物の譲渡若くは引渡を妨げる権利を有する第三者に限り主張できるものであるところ、原告は右の第三者に該当するものではないと述べた。

理由

原告主張事実は当事者間に争いがない。

よつて考へる。

債権に対し仮差押の執行が為された場合に於て、仮差押債務者に対しては、被仮差押債権の処分禁止の効力を生じ、右仮差押の効力存続中に、仮差押債務者は第三債務者に対しその取立を為し得ないこととなり、第三債務者が仮差押債務者の取立に応じて任意弁済をしても、その取立も弁済も仮差押債権者に対抗することはできないが、元来仮差押の目的は金銭債権の将来における執行の保全に過ぎないのであるから、その目的の限度を超えて仮差押の効力を認める必要もないし、又認めてはならないのである。この観点からして仮差押債務者(仮差押の目的債権の権利者)はその仮差押を受けた債権について第三債務者に対し、取立行為をしても、その効力は絶対無効ではなく、単に仮差押債権者に対抗できないだけであるし、又その取立行為の内容も仮差押の目的に反しない限度においては、仮差押債権者に対する関係においても許容されるものと解するのが相当である。だから仮差押債務者が第三債務者に対する債権取立のための強制執行のうちでも、直接取立を指向する行為、たとへば差押物件の競売、差押債権についての取立命令、転付命令等の仮差押の目的債権の消滅を生ずるような行為は仮差押債務者に許容されないが、単に差押だけならば、むしろ仮差押の目的の債権の保全にこそなれ、仮差押債権者に不利益を来すものではないから、仮差押債務者において、なし得るものと云はなければならない。本訴に於て、原告が被告に対する金銭債権保全のため、被告の第三債務者訴外新井博に対する損害賠償等請求債権を仮差押中、被告は右仮差押を受けた債権にもとづき、その執行として同債権の債務者新井博より訴外東京教育大学長栄沼直に対する債権を差押えたことは原告に対する関係でも許容されるものであることは、すでに説示したところによつて明白であるのみならず被告が(二)で主張する如く原告は被告のなした差押の目 である新井博から東京教育大学長に対する債権自体について右差押を妨げる権利を有するものでないことは原告の主張自体により明であるから原告の本訴請求は何れにしてもその理由がない。

よつて原告の請求を棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 毛利野富治郎 関口文吉 大内淑子)

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